「さて、どうしたものか…」
眼前を広がる急斜面。
荒れた樹木が生い茂り、下草の中には朽ちた木片や針金さえのぞく。
ここはかつて、豊かな葡萄畑だった。
青空を浸食するように迫る斜面を見上げる。二○○二年の夏である。
生れ育った土地である。朽ちた畑を放ってはおけない。
会社を定年退職した高野は、その思いだけで荒地に踏み入った。
最初は高野と、高野を見かねた会社の先輩、田中の二人だけだった。
農業機械さえ受け付けない傾斜地で、鎌を手に一年半、ようやく整地を終える。
しかし、初めての葡萄栽培は害虫にやられて失敗。
台風のため、開墾した斜面を流されたこともある。
「葡萄畑を蘇らせたい」…
無謀なチャレンジから五年。
約六千平方㍍の畑に、やっと美しい葡萄が実った。
退職した仲間は五人になっていた。